7296→懐かしさの話
人は、会えなくなった人の声から忘れるのか、顔から忘れるのか。
ずっと昔にそういう台詞を、何かで読んで、それからずっと覚えている。
何となくだけど、顔から忘れていくのではないだろうか。人間の視覚情報ほど弱いものはないと思う。
そういう意味で、一番記憶に深く刻まれるのは、匂いだと思っている。
ふとした時に嗅いだ香りで、ずっと忘れていたはずの情景を思い出すことがある。
それは、古い本の香りだったり、カビ臭い服の香りだったり、誰かに抱きついた時の匂いだったり、様々だけど、きっと誰にだってそういう事があるのではないか。
そういえば、クレヨンしんちゃんの映画で、大人たちが昭和へ帰る話があった。私の記憶に間違いがなければ、あの時大人たちを昭和へ戻すために使われた薬も、「昭和の匂い」だった気がする。
そう思うと、本当に大切なものは目には見えないという、どこかの王子様の台詞はまさにその通りだ。
目で見たことを忘れても、心はちゃんと覚えている。人の細胞は日々新しくなって、十年前に私を作っていたものとは完全に違っているけれど、しっかりその情報は伝達されている。
わたしは、ご褒美のように遠い昔を思い出すたびに、自分の中に積もる歴史を尊く思う。